民法総則

意思能力を有しない者の法律行為は無効である(改正新法第3条の2)

更新日:

第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする

2020年4月1日施行の改正民法により明文化されました。

Photo by Amy Luo on Unsplash

⚪︎

明文化の必要性

今回の改正は、①社会・経済の変化への対応、②国民一般にとっての分かりやすさの向上を目的としています。

今回投稿のテーマは、②国民一般にとっての分かりやすさを向上させるため、確立した判例として現在実務で通用している基本的なルールを明文化するものです。

すなわち、意思能力を有しない者の法律行為は無効であることは、大審院明治38年5月11日判決以降、判例上ゆるぎないといわれていて、これを明文化したものです。

もう少しいうと、高齢社会の進展にともなって、判断能力の低下した高齢者が契約被害にあうことが増加している状況にあり、意思能力を有しない者の法律行為は無効と明文化することで、そうした高齢者を保護する役割を果たせるといわれています。

⚪︎

意思能力を有しない者の法律行為は無効である

私的自治の原則(自己の意思に基づいてのみ権利を取得し義務を負担する)のもと、法律行為をするには、意思表示の時に意思能力が必要とされます。

すなわち、法律行為とは、「意思表示を要素とする法律要件(権利の発生・消滅・変更の原因である事実)」をいいます。

意思表示を要素」としている法律行為が有効であるためには、「有効に意思表示をする能力」即ち、意思能力が必要なことは当然のことといえます。

*-意思能力とは、「自分の行為の結果を弁識し判断することのできる精神的能力」をいう。

とか、難しく定義されてますけど、簡単にいえば、

意思能力とは、「有効に意思表示をする能力」のことです。-*

言い換えれば、

「意思能力のない者の行為は無効である。」

民法に明文はないものの、当然のことである。そう明示したのが大審院明治38年5月11日判決です。

2020年4月1日施行の改正民法は、これを明文化しました。

⚪︎

引き続き解釈に委ねられる論点

改正法は、「意思能力を有しない者の法律行為は無効」と規定するだけで、「無効」の効果をめぐる議論については、引き続き、解釈に委ねられています。

いくつかあげておきます。

無効主張者の範囲

「無効」ということは、いつまでも、誰からでも「無」を主張できるのでしょうか?(絶対的無効)

でも、「無効」とすることが、意思能力を有しない表意者本人の保護にあるのであれば、意思能力を有しない者の側からの無効主張のみを認めればよいはずです。(相対的無効)

法律行為が表意者本人に有利なのに、相手方や第三者からの無効主張を認めたなら、かえって不当な介入をまねくおそれがあると指摘されています。

したがって、無効主張できるのは、意思能力を有しない表意者本人の側からのみで、相手方は無効主張できないと解釈されています。

制限行為能力者制度との関係

(成年被後見人の法律行為)
第九条  成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

「意思能力を有しない者の法律行為は無効」といっても、行為時に意思能力を欠いていたか否かの証明はとても難しいといわれます。

そこで、行為能力が不十分な者を定型化、画一的に制限行為能力者とすることで、意思能力の立証責任から当事者を解放する。

「取り消すことができる」とすることで、取消しの主張を一定の期間制限に服せしめて(126条)、法律関係の早期確定を図り、取引の安定との調和を図る。

(取消権の期間の制限)
第百二十六条  取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

これが制限行為能力者制度の制度趣旨です。

でも、こういう制度があるにもかかわらず、制度を利用しない(審判を受けない)意思能力を欠く者の法律行為は、いつまでも「無効」なのですね。

これでは、審判を受けないでいるほうが有利になってしまいます。せっかく制度をつくったのに。。

このような不公平を回避したい。

「無効」の主張も、一定の期間制限に服せしめたい。

そこで、信義則による権利失効原則(権利者が信義に反して長い間権利を行使しないでいると、信義則上その権利の行使が阻止されるという原則)を使って、その際、権利失効する期間として126条を考慮すればよい。と指摘されています。

(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない
3  権利の濫用は、これを許さない。

いわゆる二重効の問題

上記の判例(大審院明治38年5月11日判決)は、制限行為能力者制度との関係について、次のような趣旨のことをいっています。

「制限行為能力者のした行為(取り消し可)であっても、行為時に全く意思能力がなかったときは、取り消しの意思表示を待つまでもなく、法律行為は当然に無効である。」

いわゆる〈二重効の問題〉ですね。

取り消しも無効も、どちらも「法律行為の効果発生を否定する法律上の根拠付け」にすぎません。行為者保護のため、両方認めて良い、とされています。

どちらを主張しても自由ですよ、というお話です。

あえて、立証の難しい、「意思能力がなかった」という主張をするというのも、それはそれで自由ですよ、ということです。

⚪︎

まとめ

「意思能力を有しない者の法律行為は無効である。」

国民一般にとっての分かりやすさを向上させるため、確立した判例として現在実務で通用している基本的なルールを明文化しました。

ただ、「無効」の効果をめぐる議論については、引き続き、解釈に委ねられています。

⚪︎

今回は、以上です。

⚪︎

⚪︎

民法のブログ

-民法総則

Copyright© 民法改正わかりやすいブログ , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.